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船井電機の破産、高裁が最高裁への抗告許可認めず

異例の民事再生の申立、適用判断の調査期日の2月末が迫る

 破産か再建か――。迷走が続く船井電機(株)(TSRコード:697425274)の破産抗告事件に進展があった。
 船井電機の登記上代表の原田義昭氏ら(以下、抗告人)は1月31日に最高裁へ破産事件の抗告許可を申し立ていたが、東京高裁は2月13日、抗告を許可しないことを決定した。
 破産手続き中の船井電機は、破産開始決定の取り消しを求める抗告と、事業継続を目指す民事再生法の適用の申立が同時進行する異例の展開をたどっている。
 東京商工リサーチ(TSR)は、抗告許可申立理由書(以下、理由書)を独自入手した。


抗告許可申立の理由

 理由書によると、抗告人は船井電機について連結決算を採用する企業集団の判断で対象企業が債務超過と判断して破産開始決定を出しているが、連結企業の集団は一体となって経済活動をしており、一法人の財務状況から破産要件を判断すべきでないと主張した。
 また、「現在まで本件のような連結企業集団を対象としてどのように判断すべきかの司法判断はなく、本件は民事訴訟法第337条第2項に定めれらている『その他法令の解釈に関する重要な事項を含む』場合にあたる」として抗告許可を求めた。


抗告人の資格に関して

 東京高裁は即時抗告で、抗告人の申立資格や破産申立人の資格に関して、9月27日の抗告人が船井電機の取締役及び代表取締役に就任したとされる臨時株主総会の不存在や、10月15日に開催された破産申立人の取締役解任が行われた株主総会の議事録は届出印の印影が異なり日付を遡られ作成されたことなどから、抗告を却下していた。
 理由書では、抗告人が現に会社の取締役の地位にあることは明らかだと反論。その上で以下の主張をしている(要旨)。 


 唯一の株主FUNAI GROUP(株)(TSRコード:570182948、旧船井電機・ホールディングス(株)、以下親会社)の、抗告人が取締役に選任された2024年9月27日の株主総会開催時点の親会社の代表は申立外上田智一氏のみで、上田氏の意思のみで取締役の選任や解任が可能だった。上田氏は、抗告人を後任として会社の代表取締役であることを認めている。
 また、臨時株主総会は、上田氏が株主提案して決議したもので、議事録には株主同意の証として親会社の代表取締役の印鑑を押して完成させる予定だった。しかし、上田氏が会社経理部の社員へ代表印を押して司法書士に登記申請するように指示したが、会社経理部の社員は行わなかった。そのため、親会社株式の全部を上田氏から譲り受け、親会社の代表となった古寺誠一朗氏は、自ら議事録を作成して押印するため、役員らに引き渡しを求めたが拒否された。
 議事録が作成されず、登記されないまま10月24日に破産開始決定がなされたため、抗告人の取締役としての実態があるにもかかわらず登記手続きができなかった。



議事録の代表印相違

 即時抗告で東京高裁から指摘された代表印の相違や日付を遡っての議事録作成は、抗告人と古寺氏らが破産手続きの即時抗告を行うため、抗告人が取締役であることを証明する手段で、新たに登録する予定の印鑑をもって議事録を作成した。東京高裁の指摘の通り、株主総会の実態を細部まで正確に表したものではなく、議事録と総会の実態の細部に乖離があったとしても抗告人の選任がなかったと判断することはできないと説明した。


破産法の問題点を提起

 破産手続きにおける連結企業集団としての財務状況の問題点も提起している。破産法は、単独企業を前提とした設計となっており、現在の企業集団の実態に対応できていないと指摘。会社が債務超過であるとするならば、連結決算で表れている200億の超過資産は、子会社にあることは明らかで、連結企業集団内の再建と外部債権が平等に扱われてしまうことや会社の資産評価について、取締役による準自己破産は制限されるべきだと主張した。
 「本件では、現実の企業集団の実体に対して、遅れている破産制度をどのように適用、運用するべきかが問われているという側面がある」と破産法の問題点も強調している。


主張の結論

 破産開始の是非については、法令の解釈に関する重要な事項を含む連結企業集団を構成する一法人の破産原因の判断、このような中核法人の一取締役による準自己破産で、破産開始決定をしているとした上で、本件抗告は許可されるべきで、この破産原因において誤った判断で違法であり、取り消されるべきだと結論付けた。
 また、証拠資料として、主に民事訴訟に裁判官として長年務め、高等裁判所の長官などを歴任した弁護士による「船井電機株式会社の民事再生手続開始申立てについて」という書面も添付されている。
 書面は、事実関係の特異性を指摘している。要旨は以下の通り。


 一取締役からの破産申立が裁判所で即日認められ破産管財人が選任された。破産手続き申立人は、申立日より少なくとも数週間前に裁判所に知らせ、裁判所と内密に多数回にわたる打ち合わせを経ていると指摘。破産申立書が提出される前に、秘密に申立の適否を審理判断することを許容するものではない。
 通常の弁護士が裁判所にこのような特別扱いを頼んでも応じない。今回は、破産部に多数の事件をもたらした法律事務所だったため、異例の手続きを裁判所はとった。
 また、一取締役の申立とその提出した疎明資料だけで破産開始要件を認めている。申立時点で取締役を解任したと会社側が主張していることから裁判所はその確認もしないで資格を認めたと推測される。債務超過の認定も、連結決算する会社が全体では黒字にもかかわらず、一部債務超過状態となった単体だけ破産するという話は聞いたことがない。


 その上で、破産手続きは問題があり、取り消されるべきだが、すでに破産手続きが開始されており、民事再生手続きは認められるべきと意見した。


東京高裁の決定

 東京高裁は2月13日、抗告人の抗告許可申立について、「本件抗告を許可しない」と決定した。「本件申立ての理由によれば、原決定について、民事訴訟法337条2項所定の事項を含むとは認められない。よって、主文のとおり決定する」と理由を述べている。
 船井電機の民事再生手続きは1月6日、調査委員が選任され、調査期日の2月28日が目前に迫っている。その動向に注目が集まっている。

船井電機の本社

船井電機の本社


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年2月25日号掲載予定「取材の周辺」を再編集)

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