2024年の上場企業の監査法人異動137社 前年の大型合併の反動で前年比48.1%減
2024年 全上場企業「監査法人異動」調査
国内の証券取引所に株式上場する約3,800社のうち、2024年に「監査法人異動」を開示したのは137社(前年比48.1%減)で、過去6年間で最少だった。
大幅に減少した背景は、2023年にPwCあらた監査法人(東京都千代田区)が、PwC京都監査法人(京都市下京区)を吸収合併し、「PwC Japan有限責任監査法人」となったことで異動数は過去最多の264社だった。
異動理由は、監査報酬の増額要請などの「監査報酬」が最多の62社(前年比7.4%減)。次いで、監査期間が長期間にわたったことなどの「監査期間」が33社(同56.0%減)、「会計監査人の辞任等」が23社(同43.7%増)で続く。
監査法人の異動規模別では、最多は「中小→中小」が50社(同9.0%減)。次いで、「大手→中小」が46社(同30.3%減)、「大手→大手」が12社(同33.3%減)、「大手→準大手」(前年比47.0%減)と「準大手→中小」(同52.6%減)の各9社と続く。
監査法人が異動した上場企業の産業別は、最多はサービス業の35社(同38.5%減)。以下、製造業(同58.1%減)と運輸・情報通信業(同40.3%減)の各31社の順。
2024年9月6日、公認会計士・監査審査会は、爽監査法人(千代田区)に対して行政処分などの処置をとるよう金融庁に勧告。金融庁は同年11月22日、業務改善命令の行政処分を行った。
爽監査法人は、監査対象企業の情報を私用メールに転送するなど、情報セキュリティーの内部管理に不備が見つかったほか、個別の監査業務でも不備が見つかった。
日本公認会計士協会の品質管理レビューでも、爽監査法人は情報管理やセキュリティー担当の職員を配置しておらず、監査品質を社員の評価や報酬に反映させる仕組みが不足していることなどが指摘されていた。また、個別の監査業務でも、棚卸し資産の評価手続きや減損処理などで多数の不備が見つかった。
監査法人が業務改善命令を受けたことで、監査法人との監査契約の見直しを迫られる上場企業も出ている。上場企業は、株主や投資家、取引先などのステークホルダーに対し、財務状況など投資に必要な情報の提供が求められている。それだけに上場企業の会計監査を担う監査法人の異動は影響が大きく、監査法人と上場企業の双方にとって重要性が増している。
※ 本調査は、2024年に「監査法人」「会計監査人」「公認会計士」の異動に関する適時開示を行った企業を集計した。
※ 大手監査法人はEY新日本有限責任監査法人、有限責任あずさ監査法人、有限責任監査法人トーマツ、PwCJapan有限責任監査法人の4法人、準大手監査法人を仰星監査法人、三優監査法人、太陽有限監査法人、東陽監査法人の4法人、その他を中小監査法人とした。
※ 業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。2018~2021年は旧市場で分類した。
異動理由別 「監査報酬」が最多の62社
異動理由別では、最多は「監査報酬」の62社(構成比45.2%)だった。2023年は PwCあらた監査法人とPwC京都監査法人が、2023年12月1日付で合併。PwC Japan有限責任監査法人がスタートした。また、同年10月2日、中小監査法人の双研日栄監査法人、青南監査法人、名古屋監査法人が合併し、ふじみ監査法人が設立され異動件数が増加した。2024年は、合併による異動はゼロだった。
この他、監査期間が長期間にわたったことなどが理由の「監査期間」の33社(同24.0%)、「会計監査人の辞任等」の23社(同16.7%)、「経営環境の変化」の11社(同8.0%)、親会社等監査法人の統一が7社(同5.1%)と続く。
異動理由は「監査報酬」と「監査期間」で95社(同69.3%)と約7割にのぼる。監査人としての品質管理体制や会計監査に必要な専門性や独立性、監査費用などを総合的に判断し、監査法人を変更する企業が増えた。
監査法人異動規模別 「中小→中小」が50社で最多
監査法人異動規模別では、「中小→中小」が50社(構成比36.4%)で最も多かった。次いで「大手→中小」が46社(同33.5%)、「大手→大手」が12社(同8.7%)と続く。
2024年に退任した監査法人数は、最多が有限責任監査法人トーマツの22社。次いで、あずさ監査法人が15社、EY新日本有限責任監査法人が13社で、大手3社が上位を占めた。
逆に、2024年に就任した監査法人数は、監査法人アリアが11社でトップ。次いで、監査法人アヴァンティアが9社、太陽有限監査法人が7社で、以下EY新日本有限責任監査法人の6社、かなで監査法人と有限責任監査法人トーマツが各5社、有限責任あずさ監査法人と暁星監査法人、アーク有限責任監査法人、あおい監査法人が各4社と続く。
産業別 最多はサービス業の35社
産業別では、「サービス業」の35社(構成比25.5%)が最も多かった。次いで「製造業」と「運輸・情報通信業」が各31社(同22.6%)、「小売業」が18社(同13.1%)、「卸売業」が9社(同6.5%)、「不動産業」が5社(同3.6%)、「建設業」が4社(同2.9%)、「金融・保険業」が3社(同2.1%)、「電気・ガス業」が1社(同0.7%)だった。
一方、「水産・農林・鉱業」では監査法人の異動はゼロだった。
市場別 東証スタンダードが58社で最多
市場別では、「東証スタンダード」が58社(構成比42.3%)で最も多かった。次いで、「東証グロース」が45社(同32.8%)、「東証プライム」が33社(同24.0%)と続く。
2018年から2021年までの旧市場では旧東証1部の最多が続いていたが、新市場移行後の2022年以降は「東証スタンダード」の最多が続いている。
公認会計士・監査審査会が2024年7月に発表した「令和6年版モニタリングレポート」によると、2024年3月末の監査法人数は287法人で、監査法人数は増加が続いている。
ただ、所属する常勤公認会計士数は、25人未満の中小法人が全体の90%超を占めている。
監査期間の長期化や監査報酬の見直しなどで、大手監査法人から準大手・中小の監査法人に異動する上場会社が増えている。それだけに監査の担い手として、中小規模の監査法人の重要性が高まっている。
だが、ここ数年、複数の中小監査法人への業務改善命令などの処分が相次ぎ、監査の品質の維持・向上が大きな課題に浮上している。こうした事態を受け、公認会計士・監査審査会では中小監査法人に対する検査体制を強化、報告徴収を行っている。
上場企業数は2013年の約3,400社から、2024年末は約3,800社と約400社増えている。だが、企業数が増える一方で、不適切会計が判明する上場企業は後を絶たない。企業にコンプライアンス(法令遵守)意識の徹底が求められるが、監査法人にも厳格な監査体制の確立が求められている。長引く物価高、人手不足などで業績不振に直面し、不適切会計に手を染める企業が増えるリスクも高まっており、監査法人の能力向上と判断への重要性は増している。
監査法人の体制も、監査工数が増加し、会計士の確保が急務になっている。だが、会計士登録者数の増加率に比べ、監査法人所属の会計士の増加率は低く、待遇や働き方の改善が急務となっている。監査法人の大型再編が注目されるが、地道な人材確保への取り組み方などの改善も避けて通れない。