空き家問題への取り組みで社会貢献を目指す ~ カチタス・森川晶事業戦略本部長 単独インタビュー ~
近年、空き家問題が地方を中心に社会問題になっている。総務省の「令和5年住宅・土地統計調査」によると、全国の空き家の数は、住宅全体の13.8%にあたる900万戸で、人口減少や高齢化などを背景に過去最多となった。
こうしたなか、独自の中古住宅の買取販売を通じ、空き家問題に取り組む企業がある。
東京商工リサーチ(TSR)は、戸建再販大手の(株)カチタス(TSR企業コード:271020172、群馬県桐生市)の事業戦略本部長・森川晶氏に、強みや課題、今後の展望などを聞いた。
(株)カチタス
1978年 群馬県で石材業を目的に(株)やすらぎとして設立
1988年 宅地建物取引業の免許を取得、不動産の売買・代理を開始
2013年 (株)カチタスへ商号変更
2017年 (株)ニトリホールディングスと資本・業務提携
同年12月、東証一部上場
2024年3月期の連結売上高は1,267億1,800万円
森川晶氏
1997年(株)リクルート入社
リクナビ編集デスク、スーモカウンター事業推進部長などを務める。
その後、2年半のLA在住を経て、帰国後はVRベンチャーのCMOなどを歴任。
コネクテッド・レストランを展開する(株)CRISPのCMOを経て、2022年にカチタスの執行役員マーケティング本部長へ就任。
―カチタスグループのビジネスについて
シンプルなビジネスモデルで、空き家を仕入れてリフォームで再生し、販売していく形だ。地方の物件を中心に手掛けるカチタスと、都心よりの物件を手掛けるリプライスの2社で構成し、同じ事業を手掛けている。買い取る住宅の8割程度は空き家で、2社含めて年間7千戸近くを販売している。
中古住宅は、新築に比べて手頃な価格で販売することができ、空き家問題の解決と、手ごろな価格の住宅提供の2つの価値を提供し、地域に根差したビジネスを展開している。
取材に応じる森川本部長
―景況感は
地方の人口は減少していると一概に捉えられがちだが、実際には地域によって差が大きい。例えば秋田県は県全体だと人口が大きく減少しているが、秋田市は比較的横ばいで落ち着いている。過疎地から中核都市に移動した人が、家を探すニーズがあると考えている。
物件については、見込み客を既に押さえているケースも稀にあるが、基本的には先に仕入れている。エリアと間取り、価格を考慮して需要を予測し、販売の見込みを立てながら在庫を確保している。物件にもよるが、平均的な仕入れから販売までの期間は半年程度が多く、在庫が長期化しないように気を付けている。地方だと新築戸建てのマーケットが小さく、買取業者が中古住宅を再生させ安価に流通させる意義は大きい。中古住宅に対する抵抗感も世代を経るにつれて下がっており、住宅に限らずともリユースマーケットは今後も大きくなるのではないか。
―強みは
中古住宅の仕入れのポイントは、物件の価値を適正に評価することだ。例えば、同じ築年数でも家屋の痛み具合や、メンテナンスの度合いなどは物件によって異なる。住宅を安く仕入れる事ができても、リフォーム代が嵩んで赤字になるということが起こりうる。
そのため、しっかりとした目利きとリフォームによる改善が非常に重要になる。業界の先駆けとして、リフォームと不動産の2つのノウハウを社内で蓄積していることが強みだ。
カチタスでは、1人の担当が仕入、リフォーム、販売を一気通貫で担う。1つの物件に関して熟知した営業担当が案件を主導していくことで、出口を見据えた仕入とリフォームを行うことができる。戸建てのリフォーム、再販は、マンションなどの集合住宅と比べるとチェックポイントが多く、ノウハウが必要で手間がかかるが、それが他社の参入障壁にもなっている。
また、空き家のままになっている理由の多くに、物置として使用しているケースがあるが、物件仕入の際に不要な動産の買い取りなども対応し、顧客からも喜ばれている。
そのほか、年間7千戸の販売件数がある事から、共同仕入れでコストを抑えられることも大きい。
―業界の課題は
日本では、従来新築志向が強かったが、中古住宅の販売を当たり前にし、物件購入の選択肢に入るようにしていくことが大事だ。 世界の中古住宅流通シェアを見ても、日本はまだまだ中古物件の流通が少ない。人口減少フェーズに突入し、有効な国土の活用という意味でも戸建ての中古流通を増やすことが重要だ。中古住宅の買取業者自体の認知も少なく、これからの課題だと考えている。
また、リフォームを担当する職人の技術継承も課題だ。特に、築年数の古い戸建てになると個別性が高く、当時の図面が無い上に、修繕が必要な箇所が多かったりと、施工に際して創意工夫が必要になる事が多い。現地を確認し、きちんと補修できる技術を持った職人の育成は、業界の課題と捉えている。
2023年12月13日に、空き家特措法の一部が改正された。空き家の活用に際し、許認可の合理化・円滑化が進み、管理不全空き家に対しての注意喚起や認知の向上につながったと感じている。
また、2024年4月1日から、相続登記の申請も義務化された。行政からも管理不全空き家に対する注意喚起がされることで、業界的にも追い風になっている。我々も空き家調査のアンケートを毎年実施しているが、特措法に対する意識など、徐々に認知度が上がっている事を実感している。
―今後の展望と未来像について
カチタスとしては、まずは年間1万戸の販売を目指している。販売件数が1万戸を超えてくるとマーケットの中で更に存在感が増し、規模の経済も効いてくる。目標達成に向けて、次期中期経営計画の構成を練っているところだ。
空き家問題が社会問題としてフォーカスされ始め、一見業界としては追い風一色のように見えるかもしれないが、日々手探りでノウハウを蓄積している。とりわけ、人材育成は重要な成長エンジンと捉えており、地方の大学の採用強化や、社員教育、働きやすさの向上には引き続き取り組んでいく。
中古住宅の再生、販売は細かいケアポイントが多く、手間がかかるため、社員一人ひとりの人材育成が鍵となる。社員教育に注力しつつ、事業を通じて少しでも社会貢献に繋げていければと考えている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年11月13日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)