後継者不在率、1.06ポイント上昇の62.15% 誰のための「事業承継」か検証も必要
2024年「後継者不在率」調査
2024年の「後継者不在率」は62.15%で、前年(61.09%)から1.06ポイント上昇した。不在率の上昇は、廃業を念頭に置いた「積極的不在」だけでなく、事業承継を考慮しない若年起業家の増加や承継による代表者の若返りなどさまざま要素が絡み合う。
だが、代表者が50代で71.8%、60代でも47.8%と半数近い企業で後継者不在が明らかになった。業歴を重ねた企業の代表者が高齢の場合、後継者不在を背景に倒産や突発的な廃業、債務不履行に繋がる恐れもある。円滑な事業承継を1、2年で成し遂げることは難しく、高齢代表者へのフォローの重要性が増している。
後継者不在率は、調査を開始した2019年が55.61%、2020年が57.53%、2021年が58.62%、2022年が59.90%、2023年が61.09%と右肩上がりで推移してきた。代表者年齢が60代の企業の後継者不在率は47.88%、70代で31.64%、80歳以上で23.96%と、深刻な状況を示している。
親族や社内に後継者(候補)がいない場合、事業譲渡やM&Aも事業存続に向けた有力な選択肢になる。こうした状況を背景に、官民挙げた事業承継やM&Aプラットフォーム構築の取り組みが進み、第三者への承継は以前よりハードルが下がっている。しかし、第三者承継やM&Aはブーム的な側面もあり、透明性や手続きの妥当性が問題視されるケースも散見される。
事業承継の取り組みには、後継者不在と真剣に向き合う姿勢が求められる。
※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(約400万社)のうち、2022年以降の後継者に関する情報が蓄積されているデータから17万135社を抽出、分析した。
※「後継者不在率」は事業実態が確認できた企業を対象に、後継者が決まっていない企業の割合を示す。
産業別 トップは情報通信業の77.32%
「後継者不在率」を産業別でみると、10産業すべてで55.0%を上回った。
最高は、情報通信業の77.32%(前年77.33%)で、前年を0.01ポイント下回った。代表者が比較的若いソフトウェア開発などが含まれることが不在率を押し上げているとみられる。
「同族継承」が64.66%
後継者「有り」の6万4,387社の内訳は、息子や娘などの「同族継承」が4万1,635社(構成比64.66%)で最も多かった。
以下、社外の人材に承継する「外部招聘」が1万1,997社(同18.63%)、従業員に承継する「内部昇進」が1万466社(同16.25%)と続く。
「後継者不在」企業 「検討中」が47.30%
後継者不在の10万5,748社に、中長期的な承継希望先を尋ねた。
最多は、「未定・検討中」で5万25社(構成比47.30%)だった。事業承継の方針が明確でない、計画が立たない企業が依然として多いことがわかる。
以下、「設立・交代して浅い又は若年者にて未定」の4万9,616社(同46.91%)、大きく離れて「社内で人材を育成する方針」の3,124社(同2.95%)と続く。
一方、「廃業・解散・整理(予定含む)にて不要」は620社(同0.58%)だった。
代表者が80歳以上は23.96%が後継者不在
代表者の年齢別では、不在率の最高は30歳未満の96.58%(前年96.32%)だった。創業や事業承継から日が浅く、現時点では後継者を選定する必要がないため不在率が高い。以下、30代の92.40%(同92.83%)、40代の87.43%(同86.71%)、50代の71.82%(同70.53%)と続く。
50代までは後継者「不在」が「有り」を上回るが、60代以降で逆転する。
ただ、80歳以上の不在率は23.96%(同23.83%)、70代でも31.64%(同30.53%)にのぼる。
前年との比較では、40代以上のレンジはいずれも不在率が上昇した。
業種別 不在率ワースト(高い)はIT関連
業種別(母数20以上)でみると、不在率の最高(ワースト)はインターネット附随サービス業の88.67%だった。上位10業種をみると、インターネット通販を含む無店舗小売業や情報サービス業、通信業などが並ぶ。
不在率が低いのは、協同組織金融業の29.42%、協同組合の34.47%、漁業の37.68%など。
都道府県別 地域によって大きな開き
「後継者不在率」の最高は、神奈川県の75.60%(前年74.78%)だった。次いで、東京都の72.54%(同71.96%)で、2都県が70%を超えた。企業が多く設立される大都市ほど、後継者の不在率が高い。最低は、長崎県の32.54%(同31.36%)だった。
今回の調査で、代表者年齢が40代以上のレンジではいずれも後継者不在率が上昇していることがわかった。年齢が高いほど事業承継の時期は切迫しており、この傾向は事業の継続性に暗い影を落とす可能性がある。
後継者不在率の上昇や「休廃業・解散」企業数の高止まりは、国内の中小企業のホットイシューになっている。ただ、事業承継やM&Aありきの提案では、その後の運営がうまくいかず最終的に破産する事態にも陥りかねない。非上場の中小企業では、ゴーイングコンサーンを望んではいない代表者もおり、積極的に廃業を選択することもある。
補助金や税制優遇などで官民挙げて事業承継に取り組んでいるが、代表者、M&A仲介会社、金融機関などのステークホルダーを含め、「誰のため」「何のため」の事業承継かを企業ごとに最適解を導き出すことも必要だろう。
また、本調査の「後継者不在率」は、現役経営層へのヒアリングを中心に蓄積されたデータから算出している。このため、現経営者による「後継者認定率」の側面もあり、後継者不在企業の社内に有能な次世代を担う人材が眠っている可能性もある。
多様なデータや意見をぶつけ合いながら、企業の特性に寄り添ったソリューションを考え出すことが必要だ。